『the SIX』担当の辞
集英社文芸編集部 岩田晋弘

「今度はこう来たか!」
井上さんは、同一人物を登場させるシリーズ作品を書かずに、一作ごとに作風を変えるので、読者の方は勿論、一番最初に原稿をいただく編集者はとにかく驚きます。

「《小説すばる》のミステリ特集に短編を描いてもらえませんか?」
そうお願いしたのは、2006年の秋から冬にかけての時期で、その時は他社の長編の準備をされていたのですが、「短編なら」ということでお引き受けいただいたように覚えております。

 そうして書いていただいた短編「あした絵」は、明日起きる何か悪いことが見えてしまう少女の話で、非常に胸が痛くなり、「他の人にはない、特殊な能力、感覚を持つことは辛いことなんだな」としみじみと感じ、「この力は何をもたらすのか、そして彼女はどうなるのか」と緊張しながら、静かな驚きを持って、短編を読み終えたことを覚えております。

 その後、長編の執筆でお忙しくなり、次の作品をいただくまでに間が空いてしまったのですが、「鬼の音」「空気剃刀」と作品をいただくにつれて(この後の短編は、雑誌の担当者が変わりました)、感じていた驚きは、「こんな仕掛けだったんだ、トリックだったんだ」という激しい驚きではなく、「この特別な能力を持つ子たちは、日常生活でどのような苦労をしているのだろうか? そして彼らに救いはさしのべられるんだろうか?」という、非常に切実で、胸に迫ってくるものでした。

ラバー・ソウル』や岡嶋二人時代の作品で、井上夢人=ミステリ作家という印象が強い方には、『the SIX ザ・シックス』の孤独な超能力者たちの日常を、大きな事件をあまり起こすことなく、優しい目線で描く手つきに驚かれるのではないでしょうか。

 また、井上さんの作品を読み続けている読者の方は、今まで『風が吹いたら桶屋がもうかる』では、役に立たない小さな超能力を、『the TEAM ザ・チーム』では、霊導師の持つ"超能力"の裏側を、と一作ごとに違った超能力の扱い方をしていた、井上さんの描く新しい"超能力"に驚きを感じられるのでは、と思います。

 今まで井上さんの作品を読み続けてきた方も、そうでない方にも、しみじみとした"驚き"を持って、読んでいただける作品だと思っております。
 ぜひ新たな井上ワールドをお楽しみください。