『書評』
吉野 仁(文芸評論家)

 手相を見てもらったことがある。二十年ほど前の話だ。
 もともと占いなど信じていない。だが、そのときひどく落ち込んでいて、たまたま新宿歌舞伎町の軒先の占い師に目がとまり、何となく鑑定してもらった。短いやりとりをしたあと、占い師から、「あなたは、転んでも転んでも立ちあがる人だ」と言われた。おお。なんだかすごく勇気づけられた気分で、見料を払った。
 あとになって思った。もしかするとその易者は、さりげない会話のなかで相手の性格や気質を見抜き、今おかれている状況をさぐり、それらを踏まえた上で、もっとも相手をくすぐる言葉を選んで話しかけていたのではないか。
 すなわち、占い師や霊能者というのは、オカルトではなく〈人の裏を読みとる〉という能力を駆使しているのかもしれない。
 井上夢人の最新作『The TEAM』は、八つの短編で構成された連作集である。登場するのは、霊能者とその仲間たち。「能城あや子」は、テレビのバラエティ番組の一コーナーに登場し、相談者の悩みとその正体をたちどころに見抜き、みごとに解決へと導いていった。
 ところが、この能城あや子は、ニセの霊能者なのだ。
 じつは、マネージャーの鳴滝、そして賢一と悠美をあわせた四人組が、彼女を本物の霊能者のようにみせかけていたのである。賢一は、対象者を尾行し、不在時に家のなかへ潜入し探索する。特技がパソコンの悠美は、ネット検索をはじめ、やはり犯罪まがいの荒技であらゆる秘密を調べあげる。あや子は、その調査を踏まえた上で〈霊視〉をしてみせ、隠された秘密をいい当てていたのである。
 本作では、冒頭からチームの手口が明らかにされている。さらには、能城あや子の霊力を疑い、その正体を暴こうとするゴシップ週刊誌の記者が登場するのだ。秘密をさぐり騙そうとする者たちとその裏側を暴こうとする者たちとの攻防がひとつのサスペンスになっている。大胆かつ古典的な潜入方法や最新ハイテクの知識や情報が駆使されているなど、まるでスパイ小説のような形の幕開けだ。
 さらに読み進めると、ストレートな探偵小説の趣きがある。フラッシュバックの手法により、現在と過去のエピソードが交互に描かれたり、調査の過程で新たな事実を発見したりすることで、思いもよらない真相へとスリリングに展開していく。もちろん、随所にオカルトやゴシックの怪奇性も織り込まれている。
 そして、確信犯として霊能者をでっちあげながら、なにごとも完璧にしないと気がすまない連中のプロ気質と潔さが示されているあたりも、本作の大きな読みどころ。
 やがては相談者ばかりか、四人のチームそれぞれの過去や秘められた事情が事件と重なっていく。すなわち〈人の裏を読みとる〉面白さが全編にあふれているのだ。
 心温まる解決シーンも多く、幕切れも鮮やかである。軽く人を喰ったユーモアがあちこちに感じられるあたりも含め、井上夢人らしい痛快な連作ミステリーだ。

(「青春と読書」2006年2月号より)